硫黄島からの手紙

eigadojo2006-12-09

こんな映画を観た。


第2次大戦硫黄島での戦いを日米双方の視点から描くクリント・イーストウッド監督の硫黄島2部作の第2弾。
言わば、「父親たちの星条旗」とこの「硫黄島からの手紙」の2本で約4時間半という長尺の1本の映画が完成することになります。
観る前に「あまり新鮮味がない」とか「昔の日本映画っぽい」とか聞いていたので心配していましたが、杞憂に終わりました。
またしても傑作です。
イーストウッドすげぇぞ!





以降、作品の内容に触れますので、ネタバレ覚悟!







物語は、アメリカ留学の経験をもつ指揮官・栗林忠道中将(渡辺謙)が硫黄島に赴任するところから始まります。
この栗林の司令官としての視点と同時に末端の兵士・西郷(二宮和也)の視点でも、戦争の最前線が壮絶に描かれます。
ほとんどのキャストが日本人であるにも関わらず、これは間違いなくアメリカ映画です。
通常はアメリカ側を代表させるようなキャストを登場させてアメリカ人観客の感情移入をさせるつくりにするのが常套手段なのですが、さすが巨匠イーストウッドはそんな安易な方法はとりませんでした。
日本人がどう戦争を捉え、考え、戦ったかという点を外からの視点でまるで観察するように描いています。(日本人観客にはそのあたりが物足りなく映る可能性もあります。)
前作「父親たちの星条旗」で主人公たちの戦争フラッシュバックを執拗に描いたのとは実に対照的です。
登場人物の残酷な運命を見つめる視点がクールで淡々としている点が、実に怖い戦争映画です。


そこに描かれたのは、これまでの日本版戦争映画で描かれてきたようなホットな戦争ではなく、微細にその状況を観察するようなクールな戦争の実像。
日本人俳優の言語をイーストウッドがどれほどまで理解していたのかは不明ですが、これは恐るべき演出力と言っていいと思います。
上官が感情を爆発させて兵士を殴ったり、敗残兵が玉砕したり、銃撃戦で次々に死んでゆくシーンも(映像的にはかなり残酷で壮絶ではあるのですが)かなり静謐な印象が残りました。
色味を極限まで押さえた撮影トム・スターンの功績だと思いますが、状況を冷静に描こうとする監督の信念がその画質を選択させたのだと思います。
戦争を背景としてとらえた映画は数多いのですが、戦争そのものを映像化しようとした野心的試みとしては、「フルメタル・ジャケット」「プライベート・ライアン」と並ぶぐらいの革新的な映画と言えるでしょう。


キャストとしては、二宮くんの評判がよいみたいですけど、バロン西を演じた伊原剛志がかなりな儲け役でした。
米兵の持っていた手紙を読みあげるシーンは、この2部作の中でも最も重要なシーンとも言える名場面。
号泣の師範代でございました。
その他、オーデションで起用されたと思われる無名の俳優たちがなかなかいい芝居をしているので、映画として厚みを増しています。
西郷と行動を共にする野崎役の松崎悠希は、今後が期待できる俳優だと思います。(オフィシャルサイトもありました→http://www.yukimatsuzaki.com/
その他、いい顔の無名日本人俳優がたくさん出演しているのも嬉しい。
スターだけを珍重するのではないイーストウッドの俳優を見る眼の確かさを感じさせるポイントでもあります。


ひとつだけ気になるのは、この映画がまったく短縮されずにアメリカでも公開されているのか?という点です。
劇中、アメリカ兵さえも戦場ではけっして善人ばかりではなかったというショッキングなシーンが数多く登場してきます。
このシーンや日本人兵士の心情を細やかに描いたシーンをアメリカの観客に届けてこそ、この映画の本当の価値はあると言えます。
「The Internet Movie Database」(http://www.imdb.com/title/tt0498380/)では、いまのところアメリカ公開版の上映時間が出ていないので、チェックできませんが、完全ノーカットであることを願います。
イーストウッドですからそのへんは大丈夫だと信じていますが・・・・・・・。


かなり意外かもしれませんが、全体の印象として、晩年の黒澤作品を思い出してしまいました。特に「乱」に似ている気がします。
人の世の無常さを描いた「乱」で黒澤がたどりついた境地。そこにイーストウッドも立っているような気がします。


http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/